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庵野秀明インタビュー「死に場所」を探している

庵野秀明さん 「死に場所」を探している(アニマゲDON)
 
――放映中の「彼氏彼女の事情」は、高校生たちの恋愛を軸に、見えっ張りやナルシストなど極端な性格の登場人物の言動が笑いを生む。一方、傷ついた心に「やみ」を宿す少年も登場。「エヴァンゲリオン」に続き、内面描写の追求ですか?


■いや、「心のやみ」の部分は原作にもあるが、正直言って今はうっとうしい。「カレカノ」でやりたかったのはギャグ。原作の、シリアスとギャグの幅が大きいところに魅力を感じた。


――作画枚数を極端に減らしてキャラクターの止め絵や風景だけのショットを多用したり、キャラクターの絵を切り抜いて動かしたり。「実験」してますね。


■枚数を使わないことで出る味もあるし、従来の枠にはまった絵を変えたかった。今のセルアニメは表現の幅が狭い。キャラクターはどれも同じ顔で、髪の形と色だけで区別している。そんな約束事の上にあぐらをかいて作り続けるのはどうかなあ、という思いがある。
でもアニメは表現として、ほとんど行き着くところまで行き着いてしまった。二十年たってもまだ「ガンダム」。新しいものを生み出せず、表層を取り換えてリサイクルしているだけ。百年程度の歴史しかないのに、もう現代美術や文学と似た状況になった。
ぼくらの世代以降、日本人には何もない。アニメで言うと、宮崎駿さんや押井守さんの世代は、社会とのつながりとか問題意識の中でモノが作れても、ぼくらにはそんなモチベーションは持てない。必要がないから。「ものごとに意味なんてあるの?」と懐疑的だし、社会とのつながりも希薄。世界といえばアパートとコンビニと会社くらい。
とはいえ、「エヴァ」の時、世間と向き合いたくない人たちから、安易な逃避先にされるのは嫌だった。アニメにしろ何にしろ快楽というのは逃げ場だし、それを求める気持ちは分かるが、傷つく前に逃げこむ、甘える、それで満足するのはどうかな。


――最近、映画「ガメラ3」のドキュメンタリービデオを監督したが、映画の感想は?


■まあ、公開前なので詳しくはそのビデオ「ガメラ1999」を見て下さい。

――子供時代に夢中になった特撮映画を撮る気は?


■色気はあっても、実際に出来るかは予算のこともあるし、分かりません。年齢を考えると、勢いのあるものを作れるのはあと数年と思う。「カレカノ」はいま最終話の作業中。少し遅れ気味で焦ってます。次の企画は半年も休まずに始めるでしょう。
「死に場所」を探しているんです。今の「芸風」でまずは燃え尽きたい。そこで灰をかき集めて別の「芸風」があるなら探す。このままだと「エヴァ」で終わってしまう。それだけは避けたい。そう思わないと作れない。


(聞き手・小原篤 撮影・上田頴人)

あんの・ひであき 1960年、山口県宇部市生まれ。大阪芸術大学在学中に出あったアマチュアフィルム仲間と一緒に、アニメ製作会社ガイナックス設立に参加する。95年の「新世紀エヴァンゲリオン」はデザインと作画の質の高さで若者を引きつけた。緊迫感あふれるSFドラマは様々ななぞをはらんだまま、主人公の心の解放を描いて終了。97年、映画版で完結した。昨年、女子高生の援助交際を描いた実写映画「ラブ&ポップ」を監督。昨年10月からテレビアニメ「彼氏彼女の事情」を手がけている。


●DON
先月の富野由悠季監督インタビューには「最初の『ガンダム』の時は十三歳。『なぜ人は戦うのか?』なんて真剣に考え、悩みました。ガンダムは教科書のようなものだったのかも知れません」(埼玉・水島美樹さん)など、数々のお便りをいただきました。ありがとうございます。次回は三月二十六日に掲載予定。

朝日新聞 1999.02.26夕刊)