ねこぢる書評「ねこぢるうどん」
ねこぢるうどん
パッチリした目に、三頭身の体が愛くるしい猫兄弟。一見、ファンシーグッズのキャラクターめいた主人公と、悪夢的でシュールなストーリー展開の取り合わせが、何とも不思議な作品だ。
90年6月から3年間「ガロ」誌上に連載や単発掲載された作品集。著者はマンガ家、山野一さんの妻。自分も描いてみたいと筆をとり、最初は夫名義のマンガの絵だけ描いていたが、ついに処女作『ねこぢるうどん』を「ガロ」に投稿した。
「大人になったら見えないものが見える、手放しで面白いマンガ」と、高市真紀さん[注]の支持を得て連載され、かなりの反響を呼んだ。
70年代前後の懐かしい家や街、猫家族のメルヘン世界を、突如、殺戮や狂気がスパッと切り裂く唐突さ。物置の片隅にファンタジーとお化けと殺意が同居していた、子供の頃の記憶がリアルに蘇ってくる。グリム童話の無垢な残酷さにも通じるものだ。「ビッグコミックスピリッツ」「ヤングサンデー」で、著者の新連載も始まる予定だという。(速水由紀子)
[注]高市真紀さん(27)
所収▶『アエラ』1996年 04月22日 | 号 |